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2008年8月12日のコラム
(当て逃げビデオのネット公開の是非)

 最近、ネット社会が暴徒と化して、静かに暮らしている事の生活を破壊したり、行政機関の正しい活動を妨げたりすることが散見される。 ネットそのものは、社会に浸透して来つつあると言えるが、モラル、マナーといったものが追従しない限りは、本当に浸透したとは言えない。 モラル、マナーというものは、相対的とも言えるので、一意見としては賛否両論が出てくると思う。 しかし、論理的に突き詰めていって、善良な人が困らない仕組みなら、モラル、マナーとして認めて頂けるだろう。
 本稿では、そういうことを目的に提案したい。
 なお、本稿は、2007年8月に起稿したものである。題材とした事件は、もう古いかもしれない。 しかし、マナー、モラルを論じるには適切な題材と考えるので、再度一部修正して掲載する。
何が起きたのか(事件のあらまし)
 その後加害者と断定されるA氏は、2006年10月のある日、後に居た車に嫌がらせをした後、 車を相手の車に接触させて逃走した。被害者であるB氏は、その一部始終を車載カメラで捉えていた。
 B氏は、車種やナンバーが分かるビデオを警察に提出し、処罰を求めた。
 警察は、運転者の特定が出来ないとして、検挙できなかった。
 その後2007年6月に、B氏はビデオをネットに公開。ネット社会は、車の持ち主を特定し、 持ち主の勤める会社まで非難した。その結果、その会社は事業活動が出来ないまでに追い詰められた。 A氏は、会社経営者の要求に応じて、警察に自首し、警察は検挙に辿り着いた。

この事件を見て、世間はどう反応したか
 ニュースでは、警察の言い分も報道していたが、大方がB氏に対する警察の対応を非難した。 勿論、A氏の非行は言うまでも無い。
 即ち、警察は、加害車両を特定できるビデオを被害者が提出しているのだから、 加害者を特定し、早期に解決を図るべき。 さらに、ビデオという証拠があるのだから、A氏の悪あがきは見っともないと感じた。
 B氏が取った行動に対する問題点には気付かなかった。

B氏の行動で何が問題か
 B氏の行動を一言で要約するとこうなる。 A氏の非道が我慢なら無いので、ネットの力を使って弾劾した。 ネットに非道な行為を罰する力があるなら、これも正しいといえる。 しかし、実際はそんな力は無い。それどころか、ネット自身が犯罪の手助けをする場合すらある。 論理的に突き詰めてみよう。
 問題点を明確にするため、現時点で可能な最悪のシナリオを想定してみよう。 始めに書いておくが、本稿は、B氏の行動を非難するものでは無いし、ましては 事件そのものにB氏の過失があるはずも無いという前提で、 あくまでも問題点を明確にする為に、あるフィクションをここに構築するのである。
 例えば、事件の始めに、B氏がビデオに登場するA氏の行動以上に悪質な嫌がらせをしていたとする。 その後、A氏が逆上したところからビデオが始まったとしよう。 そういう経過の中でこの事件が起き、結果として追い詰められた会社経営者がA氏と問い詰めて事実が判明したとしよう。 時既に遅しである。 事実を公表しても会社の威信は良くなる訳ではない。さらに悪化する可能性もある。
 若し、こういう状況となるとどうなるか。会社経営者は、ビデオ以前の事実を隠し、 A氏に100%の非を認めさせて自首させざるを得ない。 このフィクションの中で、最初にB氏が行った悪質な行為は藪の中である。
 再度書くが、事実に反して、問題点を明確にする為に創作したフィクションです。 しかし、そういう事情があれば、会社の存続を危ぶませるB氏の行動は、必ずしも正しくなくなる。 言い方を変えると、一歩間違えるととんでもない事を引き起こす、とても危険な行為がネットでは容易なのである。
 センセーショナルな事実をネットに公開するとネット社会は過剰に反応する。 そういう特性を理解せずに情報を公開すると。取り返しが付かない損害を生む可能性がある。 そういった仕組みを知らないで利用することは、非常に危険である。
 さらに逆説的な言い方をすると、そういうネットの特性を悪用すると、自分の悪意を正当化し、 非が無い相手を悪人にすることも出来るのだ。 そういったことが、許されるわけではないのに、ネット社会は気付かず許してしまうことがある。

B氏の行動にあるもう一つの問題点
 今回の事件では、さらに法律の問題がある。日本国は、法治国家である。 国民、国内企業の行動が裁かれるときは、民法、刑法、訴訟法などの法律で裁かれるべきである。 ネット社会の民衆の総意で裁かれてはならない。 若し、それを許したら、時代劇で出てくる暴徒の一方的な絞首刑と同じ事になる。
 今回の事件を日本の法律で正しく処理すると次の様になる。
 まず、B氏の損害は、民事事件として処理される。 民法の定めに従って、A氏の所有車両がB氏に損害を与えた事実から、民法709条、715条に従い、A氏が賠償責任を負う。 この損害は、ビデオにより責任関係が明確であり、相対の交渉が決裂であっても裁判で容易に解決する。 (実際は困難を伴うかもしれないが、解決されなければならない。)
 次にA氏の違法行為は、刑事事件として、道路交通法72条他で裁かれることとなる。 この責任は、警察が立証を担当する。 一般に、被害者には損害賠償請求権が生れるが、刑事事件の物損事故では、被害者は定義されていない。 人的被害(人身事故など)のみが被害として認定されている。 しかも、軽微な人身事故すら外されている事実がある。その事は、別稿で論じたい。
 さらに、日本の警察は、残念ながら、物損事故の事故に対する違法行為の立証には消極的である。 これは、容認されるべきではない。 しかし、例えば、A氏の処置により、担当する警察署の事故処理で、重大な人身事故の処理が後回しになったのは確かである。 警察機構の効率の問題など多くの課題があるのは確かだが、そういった事情を無視して、警察を追い詰めるのは得策ではない。

 この様に、刑事事件処理では、被害者に不利なことが多く、誠に理不尽なことが多いと思いますが、 逆に、被害者の人権は、民事事件処理が守ることが出来ると考え、正しい処理をスベキだと思います。

ネット社会の存続の為に、今回のB氏の行動はやめて頂きたい
 現実社会では、今回の様に民事責任関係が明確なことは少なく、民事であっても被害者が苦労する事実はあります。 例えば、2006年6月の発生した娘の被害事故がそうである。 私自身、加害者の態度、加害者の保険会社の対応、警察の対応に対し、大きな憤りを覚えています。 そうであっても、今回のB氏の行動は、ネット社会が暴徒と化す可能性を具現化するもので、看過できるものではありません。
 今後、同様に事件が起きても、冷静に状況を見極める姿勢を望みたいと思います



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